「学生ならではの面白いアイデアを、どうにかして社会に届けたい」「自分の企画が、全国の書店に並ぶ一冊の本になったら」。そんな学生たちの夢に本気で向き合い、商業出版への道を切り拓いている学生たちがいます。
2005年から活動を続けるインカレサークル「出版甲子園実行委員会」 。彼らが運営するのは、全国の学生から本の企画を募り、プロの編集者による審査を経て商業出版を目指すという、他に類を見ないコンテストです 。
今回は、コンテストの運営にとどまらず、読書文化の普及や学生と本の距離を縮めるために奔走する彼らの活動の実態と、その根底にある熱い想いに迫ります。

企画から出版まで。学生のアイデアを本にするコンテストの裏側
出版甲子園のメインの活動は、年に一度開催される商業出版コンテストの運営です 。毎年8月中旬まで全国の学生から「本にしたい企画」を募集し、団体内での厳正な審査を経て、選び抜かれた7〜8企画が12月中旬の決勝大会へと進みます 。
決勝大会では、出版業界の最前線で活躍するプロの編集者を招き、学生自らがプレゼンテーションを実施 。そこで見事オファーがかかれば、出版社との交渉や執筆のブラッシュアップが始まり、約1年の月日をかけて実際に書店に並ぶ書籍が誕生します 。
応募資格は「学生であること」と「商業出版の経験がないこと」のみ 。過去には小学生から、学び直しで大学に入学した70代の高齢者まで、幅広い年代からの応募がありました 。小説や詩などの芸術性の高いフィクションは文学賞への応募を推奨しているため対象外ですが、実用書や学習参考書、エンターテインメントなどジャンルは幅広く受け付けています 。そのため、学生ならではの問題意識や趣味が反映された、いい意味で癖の強い魅力的な企画が集まるのが大きな特徴です 。

コンテストだけじゃない。本と人の距離を縮める多彩なアプローチ
彼らの活動は、コンテストの運営だけにとどまりません。「本をつなぐ。明日をつむぐ。」というキャッチコピーのもと、読書という営みと学生の心理的な距離を縮めることをサブテーマに、本と人をつなぐ草の根の活動にも力を入れています 。
例えば、東京大学の「五月祭」や早稲田大学の学園祭などで出展する古本市 。ここではただ本を並べるのではなく、表紙を隠したブラインド古本市として本を販売する工夫を凝らしています 。この手法により、「東大生が選んだ本なら面白そう」と、普段はあまり読書習慣のない子どもたちや学生も興味を持って手に取ってくれるそうです 。
さらに、出版文化産業振興財団(JPIC)などの社会人団体と連携したトークショーの開催や、大学のサークルが主催するビブリオバトルへの参加、大学の生協書籍部で展開するブックフェアなど、サークルの枠を超えて読書文化を広める活動を多角的に展開しています 。
130名超の学生が集う、多様性と熱量にあふれた組織
こうした多岐にわたる活動を支えているのは、132名にも上る多様なメンバーたちです 。早稲田大学と東京大学の学生が全体の6〜7割を占めるインカレサークルであり、今年度も多くの新入生が入会するなど、その規模は拡大しています 。
巨大な組織でありながら、内部は「渉外局」「運営局」「広報局」の3局に分かれ、それぞれが兼任なしで専門的に業務を担う洗練された体制が敷かれています 。外部団体とのやり取りを担う渉外局、大会運営やイベントを管轄する運営局、活動の周知を務める広報局が連携し、「本を出す」という明確な最終目標に向かって日々動いています 。明確なオフシーズンはなく1年中活動が続きますが、週1回程度無理なく参加できるスケジュールを想定し、着実に前進を続けています 。
大規模な全体会議からチーム単位の細かな打ち合わせまで、真剣な議論が交わされる一方で、多様な大学からメンバーが集まるからこその活気と熱量が団体全体に満ち溢れています 。

既存の枠に囚われず、学生の「面白い」を社会へ発信し続ける
出版業界は今、衰退が叫ばれる一方で、自主制作の雑誌や個人出版といった新しいムーブメントも確実に生まれています 。出版甲子園実行委員会は、そうした新しい波にも柔軟に対応し、既存の形に囚われることなく進化を続けようとしています 。
「学生が持っている独特な知識やアイデアが、内輪に留まったまま終わってしまうのはもったいない。学生のうちに、自分が面白いと思っているものを広く社会に発信してほしい」 。その根本的な想いが、彼らの原動力です 。
学生の視点から出版業界に新たな風を吹き込み、本を通じて人々の心を動かしていく 。本気で本をつくりたい人、そして、誰かの「面白い」を形にする手助けをしたい人にとって、出版甲子園実行委員会の扉はいつでも広く開かれています。
