弦は、たった3本しかない 。出せる音数は限られているはずなのに、彼らが一斉にバチを振り下ろした瞬間、空気を震わせるほどの力強さと、息を呑むほど繊細な旋律が空間を支配する 。
早稲田大学津軽三味線愛好会「三津巴」 。 約100名もの学生が集い、三味線の音色に情熱を注ぐこのサークルは、単なる伝統芸能の枠に収まらない 。彼らが向き合っているのは、過去の伝承だけではなく、自らの限界を超えていくための泥臭い挑戦だ。なぜ、現代の大学生たちはこの3本の弦にそこまで魅了されるのか。未経験から全国トップレベルへと駆け上がる、その熱源と舞台裏に迫る。

「かっこいい」から始まる、伝統楽器への挑戦
2000年に設立され、今年で設立26年目を迎える「三津巴」 。現在1年生から4年生まで約100名、男女ともに偏りなく多くの部員が在籍している 。文学部、文化構想学部、理工学部の学生が多く在籍するほか 、他大学の学生も所属するインカレサークルとして、多様な個性が集結している 。
彼らの活動の根底にあるモットーは、「津軽三味線の楽しさを伝える」こと 。津軽三味線といえば、伝統的な民謡を想像するかもしれない。しかし、三津巴の普段の練習では、OBが作曲した現代的で激しいオリジナル曲を中心に演奏している 。 今年の4月に行われた早稲田合同新歓公演「RIDE」では、その固定観念を打ち破る圧倒的なパフォーマンスに多くの人が魅了された 。和楽器の経験はおろか触れたことすらなくても、このステージを見て「かっこいい」と衝撃を受け、入部を決意した新入生は多い。実に、入部者の約9割が初心者からのスタートであるという 。
プレッシャーと切磋琢磨が育む成長
彼らの活動は、ただ和気あいあいと楽器を楽しむだけではない。公式な練習は毎週金曜日の5限に早稲田近隣の公民館で行われているが、参加は強制ではなく、来られる部員が自主的に参加するスタイルをとっている 。しかし、部室では空きコマや昼休みを利用して自主練習に打ち込む部員の姿が絶えない 。
その熱量がより高まるのが、毎年5月に青森県弘前市で開催される「津軽三味線世界大会」に向けた期間だ 。大会に向けた練習は前年の12月頃から始まり、有志の参加メンバーたちは「もっと上手くなりたい」という向上心とプレッシャーに真正面から向き合うことになる 。多くの同期と共に練習を乗り越え、確実な技術の向上を実感していく過程にこそ、三津巴でしか味わえない強い絆と楽しさが宿っている 。 今年は37名で遠征し、団体戦で見事優勝を勝ち取った 。しかし、彼らの真の目標は大会での勝利だけではない。練習を通して部員一人ひとりの技術を向上させ、基礎的な部分を極めることこそが最大の目的として共有されている 。

力強さと繊細さの二面性。三津巴が描く未来の景色
津軽三味線の魅力について、サークルメンバーは「二面性」という言葉で表現する 。力強く弦を叩きつける奏法の中に、ふと繊細な音が混ざり合う 。たった3本の弦が持つ音域を最大限に引き出す奥深さが、弾き手をも魅了してやまないのだ 。
9月頃には大隈講堂で定期演奏会を開催し、オリジナル曲の披露に加えて、ダンスサークルや和楽器、書道パフォーマンスなど様々な団体との熱いコラボレーションも展開する 。そして11月の早稲田祭は、4年生にとって引退前最後の集大成となるステージだ 。
未経験から伝統楽器に挑み、仲間と共に成長していく。強靭なビートと繊細な音色を響かせる三津巴のバチは、これからも見る者の心を強く打ち据え、新しい熱狂を生み出していくはずだ。
