大学入ったら、恋愛くらいはできるだろって、思ってた。
というか、思わせてくれよって話だ。
中学から男子校、高校も男子校、しかも部活は将棋部。女子としゃべった記憶なんて、バレンタインチョコのお礼を言った中1の昼休みまでさかのぼる。
そんな俺が、早稲田の理工に入学した。
受験が終わって「これからはキャンパスライフだ」と胸を膨らませてたけど、1週間で現実を思い知った。まず、女子が少ない。いや、正確に言うと、ほぼいない。教室に入ると、男子8:女子2くらい。いやそれも日による。女子がいる日って、もはやレアポケモンみたいなもんだ。
入学式のあと、出会いを求めてサークルの新歓にも行ってみた。
「出会いがあるとしたら、ここだ」と思って。
でもそこにいたのは、理工の男子校卒の群れ。俺みたいなやつが20人くらい、緊張しながらテーブルを囲んでた。
その中で、自己紹介のたびに「○○高校?男子校だよね!」「俺も!」っていう男子校クラスタの連携が始まる。
ここに恋愛って存在するのか?って、ふと我に返った。
先輩も優しかったけど、出会いについて聞くと「インカレ入っとけ」か「Tinderやってる?」の二択だった。
あれ、これ、大学生活ってこんなんだったっけ。
講義中、前の席に女子が座ってたときのことを今でも覚えてる。
多分、学部内で初めて見た自然発生的女子だった。可愛かった。
その瞬間の周囲の視線がやばかった。男子全員が若干そわそわしてて、目では見ないふりしてたけど、明らかに全員気づいてた。
「今、このエリアの集中力、ゼロだな」って思って、もう笑えてきた。
その子は授業終わったら即ダッシュで帰っていった。俺たちは静かにその席を見つめながら、「人は消えるとき、早いんだな」ってつぶやいた。
そもそも理工キャンパスって、恋愛を生むように設計されてない気がする。
工学部の建物ってなんであんなに冷たいんだろう。コンクリートと蛍光灯に囲まれて、どこか無機質で静かで、恋愛とかそういう概念が浮かない。
ラウンジもあるにはあるけど、パソコンをカタカタしてるか、エナジードリンク飲んでるか、寝てるかの三択。
誰も恋愛してない。というか、生きるので精一杯って感じ。
あと地味にきついのが、バイト先でも出会いがない問題。
友達に「飲食にすれば? 女子多いし」って言われてカフェでバイト始めたけど、周りは全員高校生か大学三年のギャル(話しかけられない)。
俺の発声は完全に「いらっしゃいませ」しか存在していない。
もちろん出会いの場がゼロってわけじゃない。
頑張ってインカレに入って、飲み会に顔を出して、Tinderとかも試してる理工男子はいる。
実際に彼女ができてるやつもいる。
でも、そこに行く気力が残ってないんだ。
レポートに追われて、週に三回は終電帰り。翌朝は一限。
そもそも出会うより、寝たい。食べたい。YouTubeでマリオメーカーの実況見て笑ってたい。
なんというか、恋愛に向かう前に、まず自分が“人間”として立ち上がらないといけない感じがある。
気力、体力、時間、全部が足りてない。
だから最近、俺の恋愛観はすごく慎ましくなった。
となりの講義で何回か目が合うとか、コンビニのバイトでレジが一緒になるとか、Twitterで「理系の恋愛つらい」って呟いたら反応くれた人と仲良くなるとか。
そういう、ミリ単位の奇跡みたいな出会いでいい。
ていうかそれすら起きたら泣くと思う。
でも、文句言いながらも大学には行くし、出会いがなくても友達はできるし、笑い話も増えてきた。
サークルの男子と集まって「このまま彼女できないで卒業するんかな…」ってぼやく時間すら、なんだかんだで楽しい。
いつか理系にも、さりげなく自然な出会いが降ってくる日が来ると信じて、今日も俺はラーメン食って帰ります。
ちなみに最近は、西早稲田の富士丸が俺の癒しです。女子はいないけど、二郎がある。それで十分かもしれない。