就活がうまくいっていないことを、自分で自覚したのは、春学期の終わり頃だった。
面接に落ちるたびに「まぁ、これは相性が合わなかっただけ」とか「本命じゃなかったし」って言い訳をしてきたけど、7月になって、面接すら呼ばれなくなって、もうどうしようもなくなった。
周りの友達が次々と最終選考に進んだり、「サマー通った」と言っているのを見て、焦りが募った。特別なスキルがあるわけじゃない。目立った実績もない。ESに書いている「カフェバイトで得た協調性」も、何度も書き直しているうちに、もう自分の経験なのか分からなくなっていた。
早稲田の学生って、優秀な人が多い。少なくとも、そう見える。
言葉の選び方が洗練されていたり、グループディスカッションで自然に話をまとめられたり、質問に対して一瞬で論理的に答えられたり。
そういう人たちと同じ土俵に立ってるはずなのに、自分だけ別の場所にいるような気がしていた。
“なんで自分だけ、こんなに落ち続けるんだろう”。
毎回、選考に落ちるたびにメモ帳を開いて反省点をまとめてみたけど、「もっとハキハキ話す」「企業研究を深くする」みたいなことしか書けなかった。
根本的に、何かが足りてないんだと思った。でも、それが何かは分からなかった。
その日も、面接に落ちた通知が届いた。
「慎重に選考を進めた結果、今回はご縁がなかったという判断に…」
定型文。何度見たか分からない。
その通知を受け取ったあと、なんとなく手が止まって、そのままパソコンの前で固まった。
動けなかった。もう、どこにもエントリーしたくなかった。
けど、しないと不安だった。だから、就活サイトを開いて、何も考えずにまた別の企業を探して、締切が近いところにESを出した。
もはや、自分がどこに応募してるのかもよく分からなかった。
夜、実家からLINEが来た。「最近どう?」の一言。
普段、就活のことをあまり聞いてこない親だったけど、それでも察していたのかもしれない。
たぶん「内定出た?」とか「進んでる?」って聞きたかったんだと思う。でも、そこには何も書いてなかった。優しさだった。
私はそれを開いたまま、20分くらい何も打てなかった。
既読はつけた。でも返事はしなかった。
「全部詰んでる」とまでは思っていなかった。
でも、どうしていいか分からない。今動いてる意味も、自分が受けている企業のことも、自分の気持ちさえよく分からない。
何に悩んでるのかをうまく言葉にできなくて、だから誰にも話せなかった。
夜の馬場を歩きながら、スマホの画面ばかり見ていた。
誰かの内定報告、就活アカの情報、企業からの自動返信メール。
見たくないけど、見てしまう。
何もないくせに、通知だけはたくさん届く。それが余計にしんどかった。
家に帰ってシャワーを浴びて、ベッドに入ったけど、全然眠れなかった。
枕元のスマホを何度も見て、ため息をついて、また画面を伏せた。
布団の中で、「親に相談した方がいいのかな」と思った。
でも、なんて言えばいいか分からなかった。「落ち続けてて、ちょっと疲れた」ってだけでも、なんか情けなくて言えなかった。
まだ“諦めた”わけじゃなかったし、でも“頑張ってる”とも言えなかった。
結局その日は、誰にも何も言えずに朝になった。
あの夜のことは、今でもよく覚えてる。
あそこから何かが変わったわけじゃないけど、「このままじゃダメだな」とは思った。
それから少しして、気持ちを切り替えて、少し志望業界をずらしてみた。
面接も、“完璧にやろう”と思わずに、ちゃんと自分の言葉で話すようにした。
最終的にどこに行くかはまだ決まっていないけど、あの日よりは、少しだけ前に進んでいる気がする。
今、就活がうまくいかなくて苦しい人がいるなら、言いたい。
親に言えなくてもいい。誰にも相談できなくてもいい。
でも、自分のことだけは、どうか否定しないで。
自信がないのは当たり前だし、何も持ってないように思える日もあるけど、
それでも、ずっと真面目に生きてきたことは、きっとどこかで届くと思う。
早稲田に入って、必死に授業に出て、レポートを書いて、サークルに参加して、バイトもして。
それだけで、もう十分すごい。
自分のことを、ちゃんと肯定できる就活になりますように。