その青学生と初めて会ったのは、就活の合同説明会だった。
場所は渋谷ヒカリエ。あの時点でもう勝負ついてる気がしたけど、一応こっちもジャケット着てるし、髪も整えてきた。負けてない。
控室みたいなとこでたまたま隣に座って、「どこ大ですか?」って聞かれたから、
「早稲田です」って答えた。
ちょっと誇らしげに、でも自然体で。いつも通り。
そしたら、その人、にっこり笑って、
「えー、めっちゃガチじゃん」って言ってきた。
その言い方に、うっすら何か混ざってた。
そう、“学歴マウント返し”の空気。
その青学生、服のセンスが異常に良かった。
スーツじゃないのにスーツっぽく見える私服セットアップ、革靴なのにカジュアル感のあるローファー、
「朝から表参道にいた」って言ってたけど、それが妙にしっくりくる見た目だった。
一方、こっちは早稲田生定番の黒リュック+就活用量産スーツ。
靴はアトレのABCマートで買ったやつ。
リクルートで“無難”って検索した結果の集大成だった。
なのに、「最近スーツ着て面接行ってないっすね、カジュアルOK多いし」って言われて、
なんか…こっちが間違ってる気がしてくるじゃん。
話してる内容も、ちょいちょいすごかった。
・Z世代のメディア系スタートアップでインターン中
・編集とディレクション両方やってて、PVは月間30万くらい
・趣味は写真と「人と会うこと(←?)」
・「早稲田って真面目な人多そうですよね。憧れます」
→ 絶対褒めてないそれ。完全に攻撃のフリしたロブショット。
こっちは「サークルの運営頑張ってて…」とか言おうとしたけど、すでに空気で負けてた。
ていうか、もう自己紹介で勝負ついてた。
あと、これが一番びっくりしたんだけど、
「将来どんな仕事したいんですか?」って聞いたら、
「んー、なんか“人の感情を動かすこと”に関わってたいっすね」って返ってきた。
なんだその回答。抽象度高すぎて逆に正解に聞こえるじゃん。
しかもそのあと、俺が「広告とかですか?」って聞いたら、
「うーん、そういう枠にもハマりたくないんですよね」って言ってた。
いや、枠から始めさせてくれ一回。
たぶん、全部計算じゃないんだと思う。
ナチュラルに、自然に、“青学の完成形”みたいな生き方をしてる人だった。
周囲の空気をやわらかくする喋り方、距離感の詰め方、言葉の選び方。
そういうのが上手い、というか、慣れてる感じがした。
そしてそれが、なぜかちょっと悔しかった。
帰り道、ヒカリエのエスカレーターを降りながら、ふと思った。
「なんで、今の会話でちょっと負けた気がしてんだ俺」
たぶん、早稲田ってだけである程度“強キャラ感”を出して生きてきたんだと思う。
別に何かができるわけじゃないけど、なんとなく“努力型”の自信は持ってた。
でも、今日会った青学生は、“肩の力の抜けた完成形”だった。
なんかずるい。なんか羨ましい。なんか…悔しい。
でもたぶん、それでよかったんだと思う。
早稲田って、努力する人間がたくさんいて、みんな常に何かやってて、
「成し遂げよう」「ちゃんと語ろう」っていうプレッシャーがずっとある。
でも、だからこそ、自分の言葉でちゃんと戦えるようになる。
次にまた誰かにマウント取られたら、そのときはちゃんと返せるように。
そのために、今日みたいな「負けた日」も、ちゃんと残しておく。
青学のあの人は、もう次のイベントで誰かと繋がってるんだろうけど、
こっちはこっちで、地味に自分のスタイルを磨いていく。
“かっこいい風”じゃなくて、“ちゃんと地に足のついた早稲田のやつ”として。
そんなわけで、今夜は悔しさのまま、早稲田の學会で油そばを食った。
全然インスタ映えないけど、あの濃さだけは、負けてなかった気がする。