名前は知ってるのに、なぜか行かない早稲田の“未踏地”たち
こんにちは。文学部4年のN.Hです。
キャンパスで何度も前を通っているのに、一度も入ったことがない。先輩やSNSで存在は知っているけど、自分には関係ない気がしてスルーしている。そんな「名前だけ知ってるスポット」、早稲田には意外とたくさんある。
図書館、学食、サークル棟、アリーナ、講義棟…。早稲田生の生活動線は案外決まっていて、「知ってる=使ってる」ではないケースが珍しくないのだ。
今回はそんな、“知名度はあるけど足は向かない”スポットたちを、実際の学生の声とともに掘り下げてみた。行く理由もないけど、行かない理由も明確じゃない。けれど確かに、「今さら行くのもな…」と躊躇してしまう空間。そんな早稲田の“未踏地”を、もう一度見直してみたい。
ただの広場じゃなかった──戸山公園の“奥”にある世界
戸山キャンパスに隣接する戸山公園は、早稲田生にとって身近なリフレッシュスポットのひとつ。昼休みにはお弁当を広げる人、レポートを読む人、芝生に寝転ぶ人の姿が見られる。
けれども、そこからほんの少し足を進めた“奥”に何があるかを知っている学生は多くない。戸山図書館の裏手を抜け、坂を上っていくと、突然現れる森のような風景。そして、突如として姿を現すのが「箱根山」だ。
標高44.6メートル。実は“都内でいちばん高い人工の山”という豆知識もあるが、学生からすれば「だから何?」で済まされがちだ。しかし、試しに登ってみると、東京の空をちょっと違った角度から眺めることができる。人も少なく、風が抜ける。スマホを手放して、ただ景色をぼんやり見つめる時間にちょうどいい。
文キャン生にとっては最寄りのパワースポットなのに、卒業まで知らないままの人が多い。心がぐちゃぐちゃになったときに、ふらっと立ち寄るにはちょうどいい場所だ。
“未知の施設感”に負ける──西早稲田キャンパスの本館以外
文系学生にとって、西早稲田キャンパスはちょっとした“別世界”だ。
履修ミスで理工系の授業を取ってしまったとき、あるいは試験会場がなぜか理工に設定されていたとき。そういう“事故的訪問”がない限り、あの未来都市のような建物群に自発的に入っていく文系はほとんどいない。
中でも「55号館S」など、本館以外の建物は完全にブラックボックス。
「教授が“来週は3Nね”って言ってきたけど、“N”って何?」
「ピッてやらないと入れない扉多くない?」
「地下がダンジョンすぎて帰れなくなった」
そんな戸惑いの声が絶えない。けれど、少し調べてみれば学生用のラウンジやカフェ、閲覧スペースがきちんと整備されていて、文系学生でも自由に使える場所があると分かる。
例えば「リコカフェ」。西早稲田の学生専用かと思いきや、学内関係者なら誰でも利用可能。カフェ飯もクオリティ高めで、穴場のランチスポットだったりする。
恐れずに踏み込んでみれば、案外“理系キャンパス”もフレンドリーなのだ。
文学青年に優しい静寂──7号館地下、学生読書室
中央図書館、戸山図書館、そして理工図書館。これが早稲田三大メジャー図書館だとすれば、「7号館地下の学生読書室」は、ほとんどの学生にとって“存在だけ知ってる幽霊施設”だ。
「入口が暗い」「階段がこわい」「そもそも何のためにあるか分からない」
そんな声ばかりが並ぶが、実際に入ってみると、そこは穴場感満載の読書空間。並んでいるのは、近代文学や海外小説、新書や思想書など、学術と趣味のちょうど中間くらいのラインナップ。貸出もできる。冬は暖かく、夏は涼しい。利用者も少なく、静けさは抜群。
教室や図書館のような「ちゃんとしなきゃ」感がなく、ふらっと本を手に取って、ただ読むだけの時間がここにはある。
なんとなく立ち寄って、1冊読み切ってしまう。そういう日があってもいい。
国際交流って、こんなにゆるくてよかったのか──ICCの誤解
国際コミュニティセンター、通称ICC。学内ポスターやメール、SNSで見かけたことはある。でも「行ったことある?」と聞くと、9割以上が首を横に振る。
「語学力がある人しか無理そう」
「TOEFL900点台の人しかいないでしょ」
「英語で話しかけられたら死ぬ」
そんな妄想が、“とりあえず行ってみる”を阻む壁になっている。
けれど、実際のICCはそんなに敷居が高くない。イベントの多くは“語学に自信がない人向け”。むしろ「これから頑張ってみたい」という人にこそ優しい空間だったりする。
ラウンジで行われる雑談イベント、ゆるいテーマで海外の学生と話す時間、就活や留学に向けた講座など、内容は多種多様。場所も22号館1階、入口はガラス張りで入りやすい。
最初の一歩さえ踏み出せれば、ICCは“世界へのはじめのドア”になる。
最後の一線を超えられない早稲田の聖地──會津八一記念博物館
最後に紹介したいのは、早稲田の“文化的中枢”でありながら、多くの学生がその中を知らないまま卒業していく場所──會津八一記念博物館。
大隈講堂のすぐ横。赤レンガの重厚な建物。中に入れると知っている学生はいても、「行ってみた」は少数派。理由はシンプル。「博物館って、有料じゃないの?」「なんか格式高そう」「名前からして難しそう」。
実際は、無料・常設展あり・空いている。展示は美術、書、歴史などを扱い、15分ほどで一周できるコンパクトな構成。空調も効いていて、夏は避暑地、冬は避寒地になる。
館内の静寂と展示の丁寧さに触れると、「ここが早稲田だったんだ」と思わされる。
表の喧騒とは裏腹に、早稲田の“知”がじんわり染みてくる空間だ。
「たぶん行かない」場所にこそ、まだ知らない大学がある
今回紹介したのは、どれも“名前は知ってる”場所ばかり。でも、その扉を開けたことのある人は少ない。理由は明確じゃない。なんとなく、行くきっかけがなかっただけだ。
けれど、そこには確かに早稲田の別の表情がある。
空いていて、静かで、誰かに急かされることもない。
そんな場所が、すぐ隣にあったのだ。
知ってるだけじゃもったいない。知ってるからこそ、次は一歩、踏み出してみてほしい。
自分のキャンパスが、少し広がるかもしれない。
それはきっと、“知らない大学”と出会う最も手軽な方法のひとつだから。ツール