「友達を作ってくれたのは、英語じゃなく筋肉でした。」
そう話すのは、早稲田大学政治経済学部政治学科2年の凛央さん。高校1年でイギリスに留学し、今年9月からはオランダ留学も控えている。現在は早稲田バーベルクラブに所属し、週5〜6回のトレーニングを重ねながら、ボディコンテストにも挑戦している。
筋トレは、彼にとって体を鍛えるだけのものではない。言葉が完璧でなくても、人と人が自然につながれる場所をつくるもの。海外で出会ったその文化を、凛央さんは「ジムニケーション」と呼ぶ。

「友達を作ってくれたのは、英語じゃなく筋肉でした」
留学当初、凛央さんはなかなか周りに馴染めなかったという。
高校1年でイギリスに留学。新しい環境に飛び込んだものの、言葉も文化も違う場所で、すぐに友達をつくるのは簡単ではなかった。
そんなある日、ジムで突然声をかけられる。
「100kg、やってみなよ。」
もちろん、すぐに上がるわけではない。けれど、その瞬間から周りの人たちが自然と集まってきた。補助をしてくれる人がいて、フォームを見てくれる人がいて、応援してくれる人がいる。
トレーニングが終わる頃には、いつの間にかみんなと笑い合っていた。
「言葉より先に、筋肉が友達を作ってくれたんです。」
この経験が、凛央さんにとって大きな転機になった。筋トレは、黙々と自分の体を鍛えるだけのものではない。人と人が声をかけ合い、支え合い、自然とつながっていくコミュニケーションにもなる。
彼はその文化を、「ジムニケーション」と呼んでいる。

始まりは、「かっこいい体になりたい」
凛央さんが筋トレを始めたのは中学生の頃だった。
理由は、とてもシンプルだ。
「男なら、やっぱりかっこいい体の方がいいかなって思って(笑)」
そんな気持ちから、市営ジムへ通い始めた。最初から大きな目標があったわけではない。競技として本格的に考えていたわけでもない。ただ、かっこいい体になりたい。その入口の軽さが、むしろリアルだ。
その後、コロナ禍をきっかけに、筋トレは生活の一部になっていく。
凛央さんは、小学2年生から高校まで野球を続けていた。自分のことを「凝り性」だとも話している。
「一度始めたらやめられないタイプ。筋トレも今ではやるのが当たり前ですね。」
一度ハマると、自然と続けてしまう。積み重ねることが苦ではなくなる。その性格が、今のトレーニング習慣にもつながっている。
海外で知った、声をかけ合うジム文化
イギリスで凛央さんが驚いたのは、ジムの雰囲気だった。
知らない人同士でも、自然に声をかけ合う。フォームを教え合い、お互いを応援する。誰かが重い重量に挑戦していれば、周りが補助に入る。
「日本だと静かに黙々とやるイメージがありますよね。でも向こうでは普通に声をかけてくれる。」
英語が完璧でなくても、そこには会話が生まれる。共通しているのは、筋トレに向き合っているということ。重さに挑戦する姿、苦しそうに踏ん張る姿、少しずつ成長していく姿を見ているからこそ、言葉より先に伝わるものがある。
「英語が完璧じゃなくても、自然と仲間ができました。筋肉には、本当に感謝しています。」
この言葉には、凛央さんにとって筋トレがどれほど大きな意味を持っているかが表れている。筋肉は、自信をくれた。人とのつながりもくれた。海外で孤独を感じていた時期に、世界との距離を縮めてくれた。
だからこそ、彼にとって筋トレは単なる趣味ではない。

早稲田バーベルクラブで、筋トレを続ける
現在、凛央さんは早稲田バーベルクラブに所属している。
クラブには、それぞれの目標に合わせて100人超が活動している。初心者から大会を目指す人まで幅広く、約1割は留学生だという。普段は戸山キャンパスのジムを中心に、週5〜6回トレーニングをしている。
筋トレというと、初心者にとっては少しハードルが高く見えるかもしれない。何から始めればいいのか分からない。フォームが合っているのか不安。周りの人が強そうに見えて、声をかけづらい。
凛央さん自身も、最初は何も分からないところから始めた。だからこそ、筋トレを始める人の不安が分かる。
「初心者はYouTubeで調べる人も多いですが、声をかけてもらえれば、一緒にメニューも考えます。」
この言葉には、彼が海外で受け取った文化を、今度は自分が誰かに渡そうとしている姿勢がある。筋トレをする場所を、ただ体を鍛える場所で終わらせない。声をかけ合える場所にする。初めての人も入りやすい場所にする。
凛央さんが大切にしている「ジムニケーション」は、早稲田での活動にもつながっている。
ボディコンの面白さは、ストイックさだけじゃない
凛央さんが挑戦しているのは、ボディコンテストだ。
前回は、筋肉の大きさだけではなく、全身のバランスを競う「フィジーク」に出場した。大会に向けては、約5〜6カ月かけて減量し、少しずつ体を仕上げていく。
「短期間で一気に痩せるより、ゆっくり落とす方が身体には合っています。」
ボディコンテストと聞くと、厳しい食事制限やストイックなトレーニングを想像する人も多いかもしれない。もちろん、簡単な挑戦ではない。体を変えるには、日々の積み重ねが必要になる。
ただ、凛央さんが語るボディコンの面白さは、それだけではない。
会場は意外にも賑やかだという。独特な応援もある。
「〇〇君、冷蔵庫冷えてるよ!!みたいな独特な応援があるんです(笑)」
ルールが分からなくても、推しの選手を見つけるだけで楽しめる。毎年の「ミスター早稲田」も面白いと話す。来年以降は、自身も挑戦したいという。
凛央さんの言葉からは、ボディコンの世界を必要以上に遠いものとして見せない姿勢が伝わってくる。筋トレも大会も、特別な人だけのものではない。分からないなりに見てみるだけでも、楽しさは見つかる。
筋肉への恩返しがしたい
将来について尋ねると、凛央さんはこう答えた。
「筋肉への恩返しがしたいんです。」
留学先で仲間ができたこと。自信が持てるようになったこと。人とのつながりが広がったこと。
そのすべてが、筋トレのおかげだった。
彼の将来の夢は、誰もが気軽に通い、人とのつながりが生まれるジムをつくることだという。筋肉を鍛える場所ではなく、人が集まる場所。みんなが声をかけ合い、一緒に頑張れる場所。
「みんなが声をかけ合って、一緒に頑張れる場所がもっと増えたらいいなと思っています。」
ここで見えてくるのは、凛央さんが広めたいものが、単に筋トレそのものではないということだ。
重いバーベルを上げることだけが目的ではない。体を大きくすることだけでもない。筋トレをきっかけに、人と人がつながる。孤独だった場所に会話が生まれる。自信がなかった人が、少しずつ自分を好きになっていく。
それが、彼の目指す“ジムニケーション”なのだと思う。
まずは、一駅歩くことから
最後に、運動を始めたい人へのメッセージを聞いた。
「ジムじゃなくても大丈夫。一駅多く歩くだけでも立派な運動です。」
筋トレを続けている人の言葉というと、つい「ジムに行こう」「本気でやろう」といった熱いメッセージを想像してしまう。けれど凛央さんの言葉は、もっとやわらかい。
いきなり重いものを持たなくてもいい。最初から完璧なメニューを組まなくてもいい。まずは一駅歩くことからでもいい。
さらに、早稲田バーベルクラブについてもこう話す。
「バーベルクラブの人は見た目は怖そうでも、本当に優しいです。気軽に声をかけてください。」
筋肉が変えたのは、凛央さんの体だけではない。人との出会いを変え、世界の見え方も変えた。イギリスで筋肉が友達をつくってくれたように、今度は彼自身が、誰かにとっての最初の声かけをつくろうとしている。
凛央さんが広めたいのは、筋トレだけではない。
筋肉を通して、人と人がつながること。挑戦する人を、周りが自然に支えること。そして、自分の体を少しずつ変えていく中で、自分自身への見方も変わっていくこと。
「筋肉が、世界をつないでくれた。」
その言葉は、決して大げさではない。凛央さんにとって筋トレは、世界とつながるためのひとつの言語なのかもしれない。
