「モテたいから始めました(笑)」——コーヒーの世界に入った理由を、堀田さんはそう振り返る。早稲田大学商学部3年(休学中)。Elysia Coffee株式会社代表。コーヒー業界の最高峰資格・Qグレーダー保持者。Brewers Cup審査員。先輩から「コーヒー王子」と名付けられた彼は、2026年6月、東京・赤坂に新しい店をオープンする予定だ。出発点は、高校の家庭科室。そこから何が変わったのか。
珈琲という舞台で学生ながら活躍している堀田さんが現在までの道のりと今後の展望について語った。
「人がやってないこと」が好きだった
きっかけは、高校時代に自分で焙煎したコーヒーで人に喜ばれた経験だった。
「もともと、”人がやってないこと”をやるのが好きで。」——焙煎豆より生豆のほうが安いことを知ると、堀田は家庭科の先生に頼み込み、家庭科室を借りて焙煎を始める。
その小さな探究は、やがて彼の本気の道に変わっていった。
今、彼が立っている場所
堀田大志、早稲田大学商学部3年(休学中)。Elysia Coffee株式会社代表。Qグレーダー取得者。Brewers Cup審査員。元・早稲田コーヒー研究会幹事長。先輩から贈られた「コーヒー王子」という名は、彼の現在地を端的に示している。
2025年2月、Elysia Coffee設立。販売・卸売・コンサルティングを手がけ、2026年6月には東京・赤坂に実店舗「ELYSIA COFFEE AKASAKA」をオープン予定だ。希少なゲイシャ種をはじめとする世界最高峰の豆。一杯ごとに最適化された抽出。過剰な演出を削ぎ落とした静謐な空間。目指しているのは、コーヒーをワインや鮨、上質なガストロノミーと同じ次元で味わう場だ。
その実現に向けて、いま彼は学生としては異例の300万円を目標額にしたクラウドファンディングを進めている。赤坂店の内装施工と、希少豆の初期在庫の確保のためだ。
ただし、彼にとってそれは単なる資金調達ではない。「どれだけの価値観に共感してもらえるか。」——挑戦は、店づくりの前から、もう始まっている。
Cotton Clubを、達成前に予約する
早稲田に入ってからの堀田さんは、コーヒー研究会の幹事長を務めた。
早稲田祭でのコーヒー販売は、例年の売上で50〜60万円ほど。そこに彼が掲げたゴールは100万円だった。達成したらCotton Clubを貸し切って打ち上げをしよう——そう提案した上で、達成する前から会場を予約してしまったのだ。
結果は、136万円。例年比230%を達成し、Cotton Club貸切はそのまま実現した。
「目標を決めて、そこに向かってやり切る。」——この姿勢は、のちの起業にもそのまま引き継がれていく。
同じ早稲田祭では、5万部刷られたパンフレットの裏表紙(中面)に広告も出している。売上にはほとんどつながらず、広告としては赤字。それでも、認知が広がったことは確かな経験になったと、本人は捉えている。失敗の捉え方も、彼の合理性の一部だ。
「ダウンサイドの小さい挑戦をし続ける」
起業に至るまでの道のりは、決して順風満帆ではない。
実は、Elysia設立よりも前からすでに休学していた。色々なコーヒーのサイトを作っては失敗。家には数十キロの在庫を抱える日もあった。世間から見れば、貧乏学生の試行錯誤の時期だ。
ところが、本人にとってその日々はまったく苦ではなく、むしろ「楽しい過程」だったという。根底にあるのは、ひとつのシンプルなルール——「諦めるが絶対だめ。」
ここに、堀田大志という起業家の合理性が見える。
「ダウンサイドの小さい挑戦をし続ける」——リスクを取ることに彼が恐れを感じないのは、無謀さではない。借金もしている。失敗も経験している。そのうえで、ひとつひとつの挑戦のダウンサイドを冷静に見積もり、その範囲で踏み込み続けている、という意味だ。
アルバイトや長期インターンを通じて、求められる仕事と自分の特性のズレに気づき、自分は雇われるよりも起業のほうが向いていると判断したのも、その合理性の延長線上にある。
投資家が見ているのは、「やり抜くか、逃げないか」
Elysia Coffeeの出資は、主に知り合いを通じて集まっている。事業計画書を整えた、いわゆる「プレゼン」はほとんどしていない。
なぜ成立するのか。堀田さんの見立てはこうだ——投資家が見ているのは、計画の細部ではない。この人はやり抜く力があるか、逃げないか。自分の思いさえ伝われば、過剰なプレゼンは必要ない。
この見立ては、Cotton Clubを先に予約したあの判断と、本質的に同じ構造をしている。「やる」と決めることが先で、段取りはそのあとから組み上げていく。
一杯の体験を、総合的に設計する
休学してフルコミットしている現在のスケジュールはこうだ。
朝7時に起床し、1限が始まる前の時間で商談。1限・2限の授業を受け、そのまま2〜3時間の焙煎。15時から18時までは納品、メール対応、経理。18時から19時はSNS発信。夜は会食で人脈を広げる——。この生活の合間に、Qグレーダー資格を取り、Brewers Cup審査員も務めている。
豆の選定から、抽出、提供、空間演出に至るまで。彼は、一杯のコーヒーを総合的な「体験」として設計することを自分の仕事と位置づけている。香りの立ち上がり、味わいの輪郭、余韻の長さ、器、所作、空間の静けさ。そのすべてが重なって初めて、一杯は記憶に残る体験になる、と。
「コーヒーに、ふさわしい敬意と価値を取り戻す」
赤坂で彼が挑んでいるのは、コーヒーという飲み物自体の位置づけを引き上げることだ。
「コーヒーは長い間、安く飲まれるものとして扱われてきました。だからこそ、本来あるべき敬意と価値を取り戻したい。」
数百円で消費される「カフェインを得るための飲み物」と、ワインや日本酒と同じ次元で語られる「価値あるもの」。その間にある距離を、堀田さんは赤坂という街から縮めにいこうとしている。
価格ではなく、価値で選ばれる一杯へ——その明確な意思が、店舗構想にも、クラウドファンディングの設計にも、毎日のスケジュールにも反映されている。

(サークルの幹事長、休学、珈琲店オープン、様々な挑戦を続ける堀田さん)
「進み続けるしかない」
これから何かを始める学生に向けて、彼はこう言う。
「進み続けるしかない。やらないと、リスクを取る面白さは一生わからない。」
早稲田でコーヒーに出会い、その奥深さに魅了され、研究し、競技に打ち込み、そして起業に至った。既存の常識に従うのではなく、新しい価値を提案できる。「学生起業家であること」は、堀田さんにとって「その自由の証明」なのだという。
「モテたい」から始まった一杯のコーヒーは、いま、赤坂の一店舗を立ち上げ、コーヒーという文化全体に新しい価値を持ち込もうとしている。
そこに至るまでに堀田さんが積み上げてきたのは、特別な才能ではない。「人がやってないこと」を選ぶ感覚。「やり切る」と決めてから段取りを組む覚悟。そして「ダウンサイドの小さい挑戦」を続ける合理性。家庭科室で生豆を焼いていた頃から、変わっていないのは、その3つだ。
